老後の生活資金として重要な年金。ところが、国民年金(老齢基礎年金)だけだと満額でも月6万8000円しかもらえません(2024年時点、年金額は毎年4月に変わります)。
あなたが専業主婦や夫の扶養の範囲内で働いている場合、離婚してしまうと夫の厚生年金はもらえないため、年金の額が少なくなってしまうのが現実です。
熟年離婚を考える専業主婦や夫の扶養内で働く主婦にとって、年金の額を増やすことは死活問題です。
そこで、この記事ではファイナンシャル・プランニング技能士2級の筆者が、自分が受け取れる年金を増やせるかもしれない年金分割の制度について、年金って正直よくわからないという方にもわかりやすく説明します。
離婚を考えているなら、自分が年金分割制度を利用できるかどうかぜひチェックしてみて下さい。
年金分割は、夫婦が会社員や公務員として働いたことがなければ、そもそも利用できない
年金分割とは、夫婦が結婚している期間に納めた「厚生年金」の記録を離婚時に分割する制度です。
分割の対象となるのは厚生年金であって国民年金は対象とならないのです。つまり、夫婦ともに自営業者などで国民年金しか加入していない場合は関係のない話ということです。
厚生年金保険料は会社員や公務員の月々の給料やボーナスから天引きされています。そして保険料は給料の額に比例して高くなります。収入が高く、かつ保険料を納めた期間(勤務期間)が長いほど、払った保険料が多い分、将来もらえる年金額も多くなります。
このように、厚生年金は人によって年金額が異なるけど、夫婦が婚姻期間中に納めた厚生年金は二人で協力して納めたんだから、離婚する場合は多くもらえる方から少ない方に分けてあげるのが公平だよね、という制度なのです。
とくに妻が専業主婦の場合、離婚してしまえば厚生年金はゼロ(もしくは結婚前働いていても夫に比べればごくわずか)なので、夫の厚生年金から上乗せしてもらえる年金分割は神制度といえますね!
結婚期間中の厚生年金記録は夫婦の「合意」で分割できる
合意分割は夫婦の話し合いによって分割割合を決めます。最大で1/2です。
話し合いがまとまらない場合やできない場合には、家庭裁判所に申し立てを行い、年金分割の割合を調停や審判で決定してもらうことになります。(詳しくは最高裁判所のホームページ参照)
専業主婦なら合意がなくても夫の厚生年金の1/2を請求できる
結婚期間中のうち、専業主婦やパート勤務など社会保険上、夫の扶養家族となっていた期間は(いわゆる国民年金の第三号被保険者)、「3号分割制度」が利用できます。
合意分割と違って、夫婦間の合意がなくても、相手の厚生年金保険料納付実績の2分の1を請求できるのです。
ただし、3号分割が利用できるのは2008年4月1日以降に納めた厚生年金部分で、それ以前の分は合意分割で分けることになります。
たとえば、2000年に会社員と結婚し同時に専業主婦になったAさんが、2024年に離婚した場合、2008年4月1日から離婚するまでの分は「3号分割」で夫の合意がなくても分割を受けられますが、2000年から2008年3月31日までの分は「合意分割」となり夫の合意が必要になります。
年金分割の手続きができるのは離婚後。期限があるので要注意!
年金分割の請求ができるのは離婚後です。そして離婚後2年が経過してしまうと請求できなくなってしまうので、早めに手続きしましょう。
※ただし、離婚後に相手方が死亡した場合は、死亡した日から起算して1カ月を経過すると請求することができなくなるので、注意しましょう。
合意分割の具体的な手続き
- 年金分割の情報通知書を請求
- 「年金分割のための情報提供請求書」を年金事務所に提出して情報通知書を請求します
- 「情報提供請求書」は日本年金機構のホームページからダウンロードしたり、近くの年金事務所、街角の年金相談センターに備え付けてあります
- 合意書の作成
- 情報通知書を基に、夫婦で年金を分割することと分割の割合(按分割合という)を話し合って決め、その内容を文書にします(合意書)
- 合意書の様式は日本年金機構のホームページからダウンロードしたり、近くの年金事務所や街角の年金相談センターに備え付けてあります
- 年金事務所への申請
- 「標準報酬改定請求書」と合意書を持って原則、夫婦そろって年金事務所に行き、年金分割の請求を行います(一緒に行きたくない場合などは、代理人によることもできる)
- 「標準報酬改定請求書」の様式は日本年金機構のホームページからダウンロードしたり、近くの年金事務所や街角の年金相談センターでも入手できます
- 申請には、合意書のほかにも戸籍謄本、年金手帳(基礎年金番号が確認できるもの)が必要です
- 「標準報酬改定通知書」の受け取り
- 按分割合に基づき、厚生年金の標準報酬が改定され、改定後の標準報酬が日本年金機構から通知されるので、確認しましょう
3号分割の具体的な手続き
- 年金事務所に請求
- 離婚後、「標準報酬改定請求書」を近くの年金事務所に提出し3号分割を請求します
- 申請には、戸籍謄本、年金手帳(基礎年金番号が確認できるもの)が必要です
- 「標準報酬改定通知書」の受け取り
- 3号分割の請求者の標準報酬が、年金分割の対象となる期間の二人の標準報酬合計額のうち50%になるように改定されます。その改定後の標準報酬が日本年金機構から通知されるので、確認しましょう
合意分割の3号分割の違いをまとめると以下の表の通りです
合意分割 | 3号分割 | |
対象期間 | 結婚期間中であれば すべての期間 | 2008年4月1日以降の専業主婦など被扶養家族だった期間 |
割合 | 最大で二分の一 | 二分の一 |
合意 | 必要 | 不要 |
手続き | 原則、夫婦そろっての手続きが必要 | 単独でできる |
年金分割のよくある誤解
- 年金分割の手続きをすれば離婚後すぐにもらえるわけでなく、あくまで年金なので老齢年金の受給開始年齢、つまり原則自分が65歳になってからもらえます
- 妻が結婚期間中に厚生年金保険料を納めた時期があれば、場合によっては夫から年金分割を請求されることもあることに注意しましょう(妻が夫より厚生年金保険料の納付実績が大きいとき、夫が自営業者で妻が会社員の場合など)
離婚前でもできる!情報通知書を請求してみよう
年金分割を利用するために、必ず必要になるのが年金分割のための「情報通知書」です。
合意分割の場合には情報通知書の内容をもとに話し合いをすることになります。
情報通知書は夫婦二人で請求することもできますが、単独で請求することも可能です。
そして離婚前であれば、一人で請求した場合、その請求者のみに情報通知書が交付されるので、相手に知られずに入手することができ、離婚を切り出す前の準備に好都合といえます。
しかも、あなたが50歳以上で老齢年金の受給資格期間(国民年金保険料納付済み期間などが10年以上あること)を満たしていれば、老齢厚生年金の見込み額も教えてもらえます。(受給資格期間を満たしているかは、誕生月に送られてくるハガキ、ねんきん定期便やねんきんネットで調べられます)
離婚の準備段階で、老後の生活費の基盤となる年金の具体的な見込み額を知ることは、離婚後の生活設計に欠かせないステップなので、ぜひ情報通知書を活用しましょう。